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東京地方裁判所 平成9年(ワ)2011号 判決

原告

宮川澄男

宮川順

右両名訴訟代理人弁護士

末政憲一

水澤恒男

叶幸夫

右訴訟復代理人弁護士

鈴木英夫

被告

三菱建設株式会社

右代表者代表取締役

太田好彦

右訴訟代理人弁護士

中川久義

岡本広海

平野和己

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、各金五五〇万円宛及びこれらに対する平成九年二月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  被告は、平成二年当時、土木、建築工事の請負及び設計監理、スポーツ、娯楽、観光、宿泊、飲食店、売店に関する施設の管理及び運営等を目的とする株式会社であった。

(二)  訴外日綜開発株式会社(以下「日綜」という。)は、ゴルフ場及びレジャー施設の設計、管理、企画、立案、運営、レジャー施設を有するリゾート事業の開発、総合地域開発プロジェクト等を目的とする株式会社であった。

2  原告らは、平成二年三月六日、日綜との間で、栃木県黒磯市周辺における「那須黒磯総合リゾート開発計画」(以下「本件リゾート開発計画」という。)の賛同金預託契約(以下「本件預託金契約」という。)を締結し、それぞれ五五〇万円を日綜宛に振り込み、これを預託した(以下「本件預託金」という。)。

なお、右賛同金は、将来本件リゾートの会員権代金に充当される予定の金員であり、原告らは本件リゾートの会員になる予定であった。

3  原告らは、平成四年一二月ころ、日綜との間で、日綜が平成五年三月末日までに原告らに対して本件預託金を返還する旨を約した。

4(一)  被告、日綜及び訴外飛島建設株式会社(以下「飛島建設」という。)は、昭和六二年一〇月二日、栃木県黒磯市周辺において、リゾート開発施設の建築、運営、完成した施設の第三者への売却、運営委託等を行うことを目的として共同事業体(以下「本件共同事業体」という。)を結成したうえ、労務等を出資し、共同してリゾート開発事業を営むことを目的とする組合契約を締結した。

仮に、右同日の組合契約成立が認められないとしても、被告及び日綜は、平成元年四月四日、右組合契約を締結した。

(二)  右組合契約において、日綜は、本件共同事業体における用地取得や土地の取り纏め、許認可権の取得、会員募集業務等を担当し、被告は、事業資金の提供及び施工を担当することとされていた。

(三)  日綜は、本件預託金契約締結又は解約の際、右組合契約に基づき、本件共同事業体の会員募集の業務を担当する業務執行権限を有していた。

(四)(1)  民法上の組合が組合事業の経営により債務を負担する場合、右債務負担行為が商行為であるときは、数人が一人又は全員のために商行為により債務を負担したときに当たるというべきであるから、各組合員の負担すべき債務は連帯債務となるところ(商法五一一条一項)、本件においては、本件共同事業体は、その構成員である被告、日綜及び飛島建設(以下「被告ら」という。)がいずれも商人資格を有しており、また、場屋取引を営業として行うことを目的とし、日綜が本件リゾート開発計画の賛同金を集める行為は本件共同事業体の営業的商行為または営業のためにする附属的商行為に当たるから、被告は、本件預託金全額について日綜と連帯して返還債務を負う。

(2) 仮に、右(1)の主張が認められないとしても、本件共同事業体では、被告が七〇パーセント、日綜が三〇パーセントとする利益配分の特約をしたから、被告は本件預託金の七〇パーセントについて、返還義務を負う。

(3) 仮に、右(2)の主張が認められないとしても、本件共同事業体は、被告、日綜及び飛島建設の三社で構成され、債務を平等に分担すべきであるから、被告は本件預託金の三分の一について返還義務を負う。

(五)  なお、右組合契約締結に至る前後の経緯は以下のとおりである。

(1) 被告らは、昭和六二年ころ、黒磯市周辺においてゴルフ場の開発計画を立案していたが、総合保養地域整備法の施行に伴い、リゾート開発が容易になったことから、平成元年四月には、右計画を「(仮称)那須黒磯リゾート開発」の名称のもとにリゾート開発事業として共同して推進することとした。

(2) 被告らは、採算面、実行可能性等の面から変更を繰り返した後、平成二年ころには、ホテル、会議場、ゴルフ場その他の各種スポーツ施設を含んだ形態の「那須黒磯総合リゾート開発計画」として推進していた。

その後、右計画は、被告の提案により、宅地開発、分譲別荘地開発に変更された。

(3) 本件共同事業体においては、初期の事業資金を日綜が募集する賛同会員からの賛同金や、被告の日綜に対する融資金等でまかなわれていた。

日綜は、昭和六二年六月ころから平成二年六月ころにかけて本件リゾート開発計画の賛同人を募集した。

(4) しかし、バブル経済の崩壊により、右計画は行き詰まり、被告は、日綜との間で話し合いを重ねた結果、被告が、平成八年九月、本件リゾート開発計画から撤退することになり、中止が決定した。

(5) なお、被告は、実質上の事業主体として本件リゾート開発計画を推進し、日綜から用地買収の状況等に関して報告を受けるなどしていた。

5(一)  被告は、本件預託契約締結に先立ち、日綜に対し、本件リゾート開発計画についてのパンフレット、リーフレット及び現地立看板に、本件共同事業体の一員として、自己の商号を使用して本件リゾート開発計画の賛同会員の募集活動をすることを許諾した。

すなわち、本件リゾート開発計画にかかる事業(以下「本件リゾート開発事業」という。)の実質上の事業主体は被告であったのであり、日綜は、用地取得や会員募集を担当していたにすぎないものであって、上場企業の被告が右開発事業の前面に出ると、買収価格が高騰するため、無名の日綜を使って用地取得を行わせ、その資金を貸付金の形で融資し買収が完了した時点で一括して買収用地を買い取る手法を取ったものである。

なお、このことは、被告が、日綜に対し、いずれも本件リゾート開発事業の共同事業資金として平成二年一二月に一億円を、平成四年一二月に四六〇〇万円を、平成五年二月に一〇〇〇万円を、平成六年三月に二〇〇〇万円を、同年一一月に四〇〇〇万円(合計二億一六〇〇万円)をそれぞれ融資していたが、右融資は、弁済期の定めはあるものの、何度も延期されており、右定めはあってなきがごとくであり、返済がまったくされていないのに融資が継続していたこと、開発事業が完成した際、利益配分として被告が七割、日綜が三割を得る話し合いがされていたこと、被告が右開発事業から撤退する際、被告は、日綜に対する業務委託料として、四億二二八〇万円を支払ったことからも明らかである。

(二)  仮に、右許諾が認められないとしても、被告は、以下のとおり、本件共同事業体の一員として、自己の商号を使用して本件リゾート開発計画の賛同会員の募集活動を行っている外観を作出し、あるいは、右外観が作出されていることを確知した後もこれをそのまま放置し、右商号使用の外観を容認した。

(1) 被告は、本件預託契約締結に先立ち、被告の商号を含む共同事業体として「日綜開発株式会社」「三菱建設株式会社」「飛島建設株式会社」の各名称が記載されたパンフレットを多数使用して本件リゾート開発計画の賛同会員の募集活動を行った。

(2) 原告らは、ゴルフ会員権の仲介業者から、右パンフレットのほか、日綜の会社案内を見せられながら、本件リゾート開発計画は被告と日綜の共同事業で行う旨の説明を受けた。

右日綜の会社案内には、「当社は昭和四五年設立以来、ゴルフ場の企画・立案・設計等ゴルフに関しての総合コンサルトとして、三菱商事株式会社をはじめ三菱グループの依頼と指導のもとに、三菱関連ゴルフ場の総合的な企画・立案・会員募集等の業務」を行っている旨が記載されており、被告との密接な関係が示されていた。

(3) 原告らが、本件預託金の預託に先立ち、日綜及び被告に対し、電話で確認したところ、日綜及び被告は、本件リゾート開発計画が被告らの共同事業で行われる旨の説明をした。

(4) 日綜の社長は、原告らに対し、「日綜開発は永年三菱商事及び三菱グループに深いつながりがあり、三菱建設がこの開発事業に共同事業体として参加している」旨を言明した。

(5) 日綜は、本件共同事業体の一員として被告の商号が記載されたパンフレットや現地立看板を使用したが、被告は、平成四年五月ころにはこれらを確知したにもかかららず、これに抗議したり、パンフレット等の訂正を求めた形跡はなく、その後も何らの措置も講ぜず、これを容認していた。

(6) 日綜は、平成二年から平成三年にかけて、原告らに対し、被告ら三社で責任を持って諸施設を完成する旨、あるいは、被告は、日綜及び飛島建設と、本件リゾート開発事業の打合せを被告の会議室で何回も行っている旨の書面を数通送付している。

(7) 被告は、平成六年三月一五日付けの書面(甲9の2)で、日綜に対し、日綜が開発事業の推進作業を行い、被告が日綜の役割分担終了後の事業資金の提供及び施工を行う共同事業であることを認めていた。

(三)  原告らは、本件預託金契約締結の際、被告が本件共同事業体の一員として商号の使用を許諾し、あるいは、被告の商号使用が許諾されているとの外観に基づき、本件預託金契約の相手方当事者が本件共同事業体であり、被告が右事業体の一員であることから預託金の返済についても責任を負うものと誤信して、日綜との間で本件預託金契約締結を行った。

(四)  したがって、被告は、商法二三条(名板貸)の責任又は同条の類推適用による責任を負うというべきである。

また、前記のとおり、被告は、本件リゾート開発事業の実質的な事業主体であり、三菱グループとして社会的に高い知名度、信用を利用して右開発事業を推進していたものであるうえ、日綜がその下請けとして三菱グループ関連のゴルフ場関連業務を担当し、被告と緊密な関係を有し、他方、被告は、右開発事業の成功による莫大な利益を享受することを考慮すると、本件預託金の全額について返還義務を有するとするのが実質的にも妥当である。

6  よって、原告らは、被告に対し、組合契約に基き、あるいは商法二三条または同条の類推適用による責任に基づき、それぞれ金五五〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成九年二月二八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実はいずれも認める。

2  同2の事実は不知。なお、被告は、日綜から賛同金募集の事前連絡を受けたこともなく、原告らが本件預託金を預託したことも知らなかった。

3  同3の事実は不知。

4(一)  同4(一)の事実は否認する。被告は、日綜との間で共同事業体を構成したことも、組合契約を締結したこともない。

本件リゾート開発事業の事業主体は日綜であり、被告は工事業者にすぎない。

なお、二社以上の請負人が施主との間で工事を共同で施工することを請け負った場合、共同企業体(ジョイントベンチャー)を構成することがあるが、その場合には、出資の割合等を含め、詳細な事業協定を定めた共同企業体協定書を作成するものであって、本件の場合、そのような協定書はないうえ、日綜は建設業者でないから、右のような企業共同体を構成することはあり得ないものである。

(二)  同4(二)の事実は否認する。被告は、日綜に対して用地取得等を委託したことがあるが、右は、後記のとおり、リゾートマンションの建設事業に変更後のことであり、本件リゾート開発事業とは関係のない事業に関するものである。

(三)  同4(三)の事実は否認する。前記のとおり、組合契約が成立していない以上、日綜が業務執行権限を有することもあり得ない。

(四)(1)  同4(四)(1)の事実は否認する。

(2) 同4(四)(2)の事実は否認する。被告と日綜との間で利益配分の割合又は方法について協定が成立したことはない。

(3) 同4(四)(3)の事実は否認する。

(五)(1)  同4(五)(1)ないし(5)の各事実はいずれも否認する。

(2) 被告の日綜との関係は、以下のとおりである。

① 被告及び飛島建設は、昭和六二年一〇月二日、日綜との間で、日綜が栃木県黒磯市木綿畑川原に建設する那須黒磯カントリークラブのコース並びにクラブハウスの建設工事を発注する旨の協定をした。しかし、右建設計画は、栃木県が折からの総量規制等によりゴルフ場建設の開発許可凍結の方針を打ち出したため、昭和六三年に至り、右ゴルフ場の建設が中止されるに至った。

② その後、日綜は、右建設計画を変更して、右ゴルフ場の開発予定地を対象として、単独でミニゴルフ場、ホテル、別荘地等の複合リゾートの建設を企画、立案し、平成元年四月四日付けで、栃木県知事に対し、土地利用に関する事前協議書を提出し、同県黒磯市百村に那須黒磯リゾート開発(仮称)を目的とする開発事業を行おうとした。

③ 被告は、平成元年一二月ころから、工事の請負業者として、日綜が事業主体として進めていた右開発事業のマスタープラン策定等について打ち合わせを重ねるなどし、右開発事業に全面的に協力していた。

④ しかし、日綜は、平成二年初めころ、予定していた一五万坪の用地買収が難航し、事業展開の目処がつかない状態となったが、その後、右リゾート開発計画の規模を縮小せざるを得なくなり、訴外株式会社朝日住建(以下「朝日住建」という。)の参加を得て、右リゾート開発計画をリゾートマンションの建設と分譲計画に事業変更するに至った。

⑤ 以後、朝日住建は、中心となって右リゾートマンション分譲事業計画を企画、立案して事業決定を行い、その完成物を販売することを計画し、被告は、平成二年九月一八日、朝日住建との間で覚書を取り交わし、用地取得、開発に関する許認可取得及び建設工事の請負を基本とするリゾートマンションの建設と分譲計画に関わった。

⑥ 被告は、右覚書に基づき、平成二年一二月一四日、日綜が右マンション分譲事業の計画予定地内に従前事業計画を立案し、開発許可を申請し事前協議を経た部分が存したことなどから、それまでの地元関係者との関係を生かして、日綜に対し、右マンション分譲事業における用地取得、地権者の取り纏め及び許認可取得に関する業務等を委託した。

⑦ ところが、前記マンション分譲事業も、法的制約から高層マンションが建築できなかったため、とん挫するに至った。その結果、被告は、朝日住建との間の前記マンション分譲事業に関する覚書に関する合意を解消するに至ったものである。

⑧ 以上のとおり、被告は、本件預託金契約当時、日綜との間で、本件リゾート開発事業に関して、共同して事業を行おうとしたことはまったくなく、その構成員となったことはない。

5(一)  同5(一)の事実は否認する。被告は、日綜に対し、パンフレット等に被告の商号を掲載することを許諾したことはない。被告は、右パンフレット等における被告の商号使用につきまったく把握していなかった。

(二)  同5(二)の柱書きは否認する。

(1) 同5(二)(1)の事実は否認する。被告は、原告ら主張のパンフレットの制作及びこれを利用した会員募集にはいっさい関与していない。なお、右パンフレット等は、平成二年九月当時、すでに本件リゾート開発事業から離脱していた飛島建設の社名が記載されている点からも不自然なものである。

(2) 同5(二)(2)の事実は不知。

(3) 同5(二)(3)の事実は否認する。原告らが被告に電話で確認したとの事実は、平成一〇年九月二日の陳述書(甲12)に至って初めて現われたものであり、到底信用することができない。

(4) 同5(二)(4)の事実は不知。

(5) 同5(二)(5)の事実は否認する。原告ら主張の立看板は平成三年八月ころのものと考えられるが、当時、被告は、朝日住建との前記覚書を取り交わしていたから、右立看板を放置するはずがない。また、右立看板の表示は、温泉鑿泉予定地の名のもとに被告を含め三社の商号が併記されているにすぎないものである。

(6) 同5(二)(6)の事実は否認する。

(7) 同5(二)(7)の事実は否認する。

(三)  同5(三)は争う。本件預託金の振込先は日綜であり、被告の商号が使用されたことはなく、名板貸責任を基礎づけることはできない。

(四)  同5(四)はいずれも争う。

三  抗弁

日綜のパンフレットには、「建設プロジェクト共同事業体」として、「日綜開発株式会社、三菱建設株式会社、飛島建設株式会社」と表記し、その下段に日綜開発株式会社と明示して、その下に同社の本社、分室及び現地事務所などの記載があり、右記載を子細に検討すれば、会員権又は賛同者の募集の主体が日綜であることは自明であり、右記載から、被告及び飛島建設が預託金の返済について責任を負うとの趣旨を読みとることは到底できない。

したがって、原告らが、本件預託金契約締結の際、契約の相手方当事者を被告を一員とする共同事業体であると誤信したことには重大な過失がある。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。原告らは、前記のとおり、被告に架電して、被告が共同事業として本件リゾート開発事業を行っていると回答をしたため、パンフレット等の記載を信じたものであって、被告が共同事業を行っていると判断したことについて何ら過失はない。

理由

一  請求原因1(当事者)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  証拠(甲2、3の各1、2、甲4の1、甲19、原告宮川澄男)並びに弁論の全趣旨によれば、(一) 原告らは、ゴルフ会員権の仲介業者から本件リゾート開発計画を紹介され、将来リゾート会員権を購入することを前提として、その賛同会員となることを勧められたこと、(二) 原告らは、日綜に対し、その申込みをしたところ、日綜は、平成二年二月二七日ころ、原告らに対し、本件リゾート開発計画の賛同金として、一口五五〇万円を同年三月一〇日までに日綜の銀行口座に振り込む方法で支払うよう指示したこと、(三) 右賛同金は、将来リゾート会員権の代金に充当されることが予定されていたこと、(四) 原告らは、平成二年三月六日、日綜に対し、その銀行口座に振り込む方法でそれぞれ五五〇万円を送金したこと、(五) 日綜は、原告らに対し、右同日付けの領収書を送付したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、原告らが、平成二年三月六日、日綜との間で本件預託金契約を締結し、それぞれ五五〇万円を賛同金として日綜に預託したことが認められる。

三  証拠(甲4の5、原告宮川澄男)並びに弁論の全趣旨によれば、(一) 原告らは、本件リゾート開発計画が予定通り実現されないことから、平成四年一二月ころ、日綜に対し、本件預託金の返還を求めたこと、(二) 日綜は、原告らに対し、平成四年一二月二八日ころ、日綜が平成五年二月ないし三月ころまでには本件預託金を返還することが可能になるので返済を右時期まで猶予してもらいたい旨を申し入れたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、日綜は、平成四年一二月二八日ころ、原告らとの間で、遅くとも平成五年三月末日までに本件預託金を返還する旨を約したことが認められる。

四  次に、被告の責任の有無について判断するが、その前提として、被告と日綜との間の取引の経緯又は状況について、まず検討する。

証拠(甲9の2、3、乙1、乙2の1、2、乙3〜6、乙7の1、2、乙8、乙9の1、2、乙10〜13、乙14〜18の各1、2、乙19、乙20の1、2、乙21、23、24、証人角田嘉宏)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  日綜は、昭和六二年一〇月二日、被告及び飛島建設との間で、日綜が栃木県黒磯市木綿畑川原に建設する那須黒磯カントリークラブのコース並びにクラブハウスの建設工事に関して協定書を作成した。右協定書には、(1) 被告らが右工事に関して相互に協力する旨、(2) 日綜は右工事に関する許認可を取得する業務を行い、被告及び飛島建設は許認可に必要な技術的助言、協力をする旨、(3) 日綜は、被告及び飛島建設に特命で右工事を発注する旨、右工事の開発許可の目処がつかなかったとき、又は右工事の請負契約の条件に関して合意に達しなかったときは右協定は解除される旨、(4) 日綜は、解除までに被告及び飛島建設が要した費用について別途精算する旨等記載されている。(特に、乙1、24)

2  もっとも、右ゴルフ場の建設計画は、昭和六三年一〇月ころ、栃木県が折からのゴルフ場総量規制等によりゴルフ場建設の開発許可凍結の方針を打ち出したため、その建設を断念せざるを得なくなった。そこで、日綜は、右ゴルフ場の開発予定地の一部である栃木県黒磯市百村字水尻所在の土地一六五筆(約一五万坪)を対象として、ミニゴルフ場、ホテル、コンドミニアム等を併設した複合リゾートの建設を企画、立案し、平成元年四月四日、栃木県知事に対し、土地利用の目的を(仮称)那須黒磯リゾート開発とし、土地利用に関する事前協議書を提出し、右開発事業を推進しようとした。

なお、飛島建設は、当時の社内事情の変化もあり、この時点で請負業者として参加することを断念した。(特に、乙2の1、2、乙24)

3  被告は、その後も工事の請負業者として日綜の右リゾート開発事業に協力していたが、バブルの影響もあって用地買収もしくは近隣地権者の開発同意書の取得が難航したため開発対象地の面積を縮小せざるを得ない見通しとなったことから、日綜は、被告に対し、開発資金の援助を求めるとともに、事業計画の見直しないし事業取組体制の再検討の協力依頼を申し入れた。

被告は、当時、日綜が、相当程度の面積の土地を取り纏めていたほか、リゾートマンションの販売が不動産の販売として付加価値が高く、利益率もよいことから、大手マンション販売業者であった朝日住建の参加を得て、日綜の前記リゾート開発事業計画をマンションの販売を主たる目的とするリゾートマンション開発計画に変更し、事業主体も被告とすることとし、平成二年九月一八日、朝日住建との間で、覚書と題する書面を取り交わした。右覚書には、(1) 被告と朝日住建が、栃木県黒磯市百村地区及び同市木綿畑地区において行う事業計画について事業を遂行することを合意した旨、(2) 被告は、用地取得及び開発に関する許認可取得を行い、その建設工事を請け負う旨、(3) 朝日住建は、右事業計画の企画、立案をし、事業決定を行い、その完成物を販売する旨、(4) 日綜が右計画の計画地について、事業計画を立案し、一部許認可を取得するなどしているので、被告が日綜との折衝を行う旨等が記載されている。(特に、乙3、24、証人角田)

4  被告は、右3の覚書に基づき、平成二年一二月一四日、日綜との間で、覚書と題する書面を取り交わした。右覚書には、(1) 被告と日綜は、被告と朝日住建との間で締結された右3の覚書に関する開発事業について事業を遂行することを合意した旨、(2) 日綜は、被告の申出に基づき、右事業の用地取得及びこれに関する地権者の同意の取纏め等、用地取得に関する関連諸業務を行う旨、(3) 日綜は、被告の申出に基づき、開発許認可の取得並びにこれに要する地権者及び諸官公庁等との対外折衝等、開発許認可取得に付随する関連諸業務を行う旨、(4) 日綜は、朝日住建が企画、立案する右事業に関して、早期実現を図るため、朝日住建の企画、立案に対し、被告を通じて助言、援助を行う旨、(5) 被告と日綜は、事業計画が決定された後は、その基本方針、業務分担の詳細及び諸条件等が確定した後に、別途個別契約を締結する旨、(6) 被告と日綜は、栃木県黒磯市笠木地区他の計画地については、右開発事業の推進状況を勘案のうえ、協議して取り決める旨が記載されている。(特に、乙4、24)

5  被告は、平成二年一二月一四日、日綜に対し、一億円を栃木県黒磯市百村地区の開発事業資金(地権者対策費)とし、弁済期を平成三年四月三〇日、利息を年八パーセント、遅延損害金を年一四パーセントとしたほか、右貸付金を右目的以外に流用したとき、日綜の資産、信用又は事業に重大な変更を生じ、債務の履行が困難であると被告が認めたとき又は右地区の開発事業の遂行が困難となったときは期限の利益を喪失するとの約定のもとに、貸し付けた。

なお、日綜は、平成三年四月、被告に対し、右貸付の返済期限を六か月間延長することを求め、被告は、右返済期限を同年一〇月三〇日に変更した。その後も、日綜は、被告に対し、右返済期限の延長を求め、被告は、同年一〇月三一日、右返済期限を平成四年二月二八日に、同年九月九日、右返済期限を平成五年三月一〇日にそれぞれ変更した。(特に、乙6、乙9の1、2、乙10、11、24)

6  しかし、右開発計画予定地は、中高層の建築物を構築する開発許認可を受けることができないことが判明したため、前記3の開発事業計画も中止せざるを得なくなった。そこで、被告は、平成四年二月二八日、朝日住建との間で、右3の覚書を解除する旨を合意した。その際、被告及び朝日住建は、それぞれが既に支出又は負担した費用については互いに請求しないことを約したほか、日綜との関係で、右合意解除に伴う措置等については被告がその負担で行うこととされた。

また、被告は、同月二七日、日綜との間で、前記4の覚書を変更する旨の契約書を取り交わした。右書面には、(1) 被告と日綜は、黒磯市所在の土地の開発に関して締結した覚書について変更契約を締結した旨、(2) 日綜は、被告と朝日住建が締結した前記3の覚書を合意の上解除したことを承諾する旨、(3) 被告と日綜は、右合意解除に伴い、用地取得、開発許可業務、融資金その他関連する事項についての措置等を早急に協議して決定する旨が記載されている。(特に、乙5、乙23、24、証人角田)

7  その後、被告は、前記3の開発事業計画を一戸建の別荘分譲を柱とするリゾート別荘開発計画に変更し、日綜が用地取得及び開発許認可取得業務を担当することとして、右事業を遂行しようとした。

日綜は、平成四年一二月ころ、右業務遂行のための資金繰りに窮したことから、被告に対し、四〇〇〇万円の追加融資を申し込んだほか、以下のとおりの申入れを行った。(特に、甲9の3、乙12、24、証人角田)

(一)  地権者一七名が代替地の取得を希望しているところ、その取り纏め時期を平成五年二月末日まで延期して欲しい旨、また、日綜は、右時期までに、対象土地に関して地権者の取り纏め状況を報告する旨、

(二)  被告が、右対象土地の取り纏め状況が不可能であると判断したときは、被告が右事業計画から撤退しても、日綜は異議を述べず、損害賠償等の請求をしない旨、

(三)  被告が、右対象土地の取り纏め状況が可能であると判断したときは、被告と日綜との共同事業を前提として、被告との間で協議してきた重要事項について、次のとおり、取り進めたい旨、

(1) 対象土地の売買契約に際し、土地所有者の最終登記名義人を被告とする旨、

(2) 開発名義人は、開発認可を取得後に被告名義又は被告及び日綜の共同名義と変更する旨、

(3) 日綜が負担した経費の支払を承認してほしい旨、

(4) 事業計画における利益配分は、被告が七〇パーセント、日綜が三〇パーセントとしたい旨、

(5) 排水路使用許可は既に取得済である旨

(6) 温泉については、試掘調査を行っていないため、確実性、温度、湯量等は未定であり、早急に調査する必要がある旨、

8  被告は、平成四年一二月二八日、日綜に対し、栃木県黒磯市百村地区の開発事業資金(地権者対策費)として一億四六〇〇万円を貸し付けた。その際、右貸付金の弁済期は、平成五年一二月二〇日と、利息は年4.5パーセント、遅延損害金を年一四パーセンとされたほか、右貸付金を右目的以外に流用したとき、日綜の資産、信用又は事業に重大な変更を生じ、債務の履行が困難であると被告が認めたとき、又は右地区の対象土地約二六万平方メートルの買収について地権者の同意が得られず、右返済期限内に土地の取り纏めが終了しないことが判明し、被告が開発事業の遂行が困難となったと認めたときは期限の利益を喪失するとの約定がされた。

被告は、平成五年二月二六日、日綜に対し、利息、損害金、期限の利益喪失特約については右貸付と同一の条件のもとに、更に一〇〇〇万円を貸し付けた。

なお、日綜の代表取締役であった訴外西大篠稔は、同年九月に急逝した。(特に、乙13、乙14の1、2)

9  日綜は、平成五年一二月一七日、被告に対し、右各貸付金の返済を平成六年六月二〇日まで延期するよう申し入れ、被告は、同月二一日、日綜との間で、右返済期日を平成六年六月二〇日に変更する旨を約した。

また、日綜は、同年三月二九日、被告に対し、事業資金に不足を生じたとして、再度、二〇〇〇万円の追加融資を申し込んだ。

被告は、同年三月三一日、日綜に対し、黒磯市百村地区の追加開発事業資金(地権者対策費)として二〇〇〇万円を貸し付けた。その際、右貸付金の弁済期は、平成七年三月三一日と、利息は年4.0パーセントとされたほか、遅延損害金、期限の利益喪失特約に関しては右8の貸付と同一内容とされた。

なお、日綜は、平成六年六月一七日、右8の貸付金に関し、平成七年七月二〇日まで延期するよう申し入れ、被告は、平成六年六月二一日、日綜との間で、右返済期日を平成七年六月二〇日に変更する旨を約した。

日綜は、平成六年一一月三一日、右各貸付金に関し、同月三〇日で精算したうえ、平成七年九月三〇日までその返済を猶予するよう申し入れ、被告は、平成六年一二月一日、日綜との間で、平成六年三月三一日付け及び同年六月二一日付けの貸付金の元利精算金一億八九五〇万二五七一円及び同年一一月三〇日付け追加融資金四〇〇〇万円を合算した額二億二九五〇万二五七一円を消費貸借の目的とする旨を約した。その際、右貸付金の弁済期は、平成七年九月三〇日と、利息は年4.0パーセントとされたほか、遅延損害金及び期限の利益喪失に関しては右8の貸付と同一とされた。(乙15〜18の各1、2)

10  日綜は、前記のとおり、平成五年九月、前代表者の西大篠稔が急逝し、その女婿である訴外伊藤孝英が代表取締役に就任したが、右代表者の交代に伴い、日綜と被告との関係が必ずしも緊密ではなくなったことから、被告は、日綜に対し、平成六年三月一五日、那須黒磯宅地造成に係る件と題する書面を送付し、従前の経緯について、日綜側の理解を求めた。

右書面には、(1) 昭和六二年一〇月ころ、日綜がゴルフ場開発計画(対象土地約二〇万坪)を計画し、飛島建設と被告が施工業者として協力してきた旨、(2) 昭和六三年の総量規制等により、右計画が中止となり、その代替として、隣地約一五万坪に複合施設によるリゾート開発を計画した旨、(3) しかし、右計画も、対象土地全体の取り纏めが不可能であることが判明し、その範囲を約一〇万坪に縮小したものの、これも実現せず、平成三年一〇月ころには、日綜から、平成六年当時の計画対象地である約七万八〇〇〇坪に縮小せざるを得ないとの報告を受けた旨、(4) 他方、リゾート事業の採算性の不安要因等も存したため、平成二年末ころから、被告の紹介により、ディベロッパー会社の協力を得て、リゾート用中高層住宅を柱とする計画内容の変更等を検討したが、行政当局の内諾が得られず、結局、右計画に別荘分譲を一部追加変更して検討せざるを得なくなった旨、(5) この間、右事業の最終取組方針は、日綜と被告との共同事業とするが、事業の推進については日綜と被告との役割分担を取り決め、日綜は長年にわたる地元又は行政とのパイプ等を生かして対象地全体の買収を前提とした土地の取り纏め又は開発許可取得までの開発行為の推進を負担し、被告は、日綜の役割分担後の事業資金の提供及び施工を行うものとされた旨、(6) 被告は、右事業の遂行を前提として、日綜に対し、資金を融資してきたが、土地の取り纏め、開発許可等の許認可、事業収支、販売状況等から、右事業計画の推進に強い懸念を表明した旨、(7) 日綜も、平成五年七、八月ころ、被告に対し、リゾート案件の全国的な不調等の観点から、右事業の見直し、及びこれに伴う技術的援助の協力方を要請した旨、(8) その結果、被告は、右協力方に取り組み、平成六年三月に至っている旨が記載されている。(甲9の2、乙24)

11  日綜は、平成七年五月一五日、被告に対し、那須黒磯開発事業に関する事業案と題する書面を送付し、日綜も努力してきたが、これ以上この状態を続行することは不可能であると決断し、被告による続行について、被告に対し、(1) 日綜の維持のため日綜へ資金を融資すること、(2) 被告が用地買収の費用を支出し、日綜がこれを受けて被告名義で用地買収を行うこと、(3) 右に関して契約書を作成すること、(4) 被告と日綜とで金額に関して協議することを要望事項として提出したほか、日綜が本件リゾート開発事業に当てた費用一八億円を直ちに返還することを要求した。

被告は、日綜と交渉を重ねた結果、本件リゾート開発事業から撤退することにし、平成八年九月三〇日、被告の右撤退に伴い、示談書を取り交わし、日綜が、それまでに地権者の取り纏め業務、許認可取得業務等に要した費用等の問題解決に当てるため被告は、日綜に対し、示談金として四億二二八〇万円を支払うこととする一方、右示談金支払債務と日綜の被告に対する貸付債務(元利合計二億二二八〇万円)とを対当額で相殺することとした。その際、被告と日綜は右示談書に定めるほかは債権債務がないことを確認し、右事業に関して、地権者、会員権購入者、日綜の債権者等から何らかの請求があったときは、日綜が、その費用と責任で解決することを約した。なお、被告は、日綜に対し、同年一〇月一四日、右相殺後の示談金の残額二億円を支払った。(特に、乙19、乙20の1、2、乙24)

以上の諸事実が認められ、右認定の事実を覆すに足りる証拠はない。そこで、以上の事実を前提として、被告の責任の有無について検討することとする。

五1  原告らは、被告、日綜及び飛島建設が、昭和六二年一〇月二日、栃木県黒磯市周辺において、リゾート開発施設の建築、運営、完成した施設の第三者への売却、運営委託等を行うことを目的として本件共同事業体を結成したうえ、労務等を出資し、共同してリゾート開発事業を営むことを目的とする組合契約を締結した旨を主張する。そこで検討するのに、組合契約が成立するためには、各当事者が出資をし、共同の事業を営むことを約することを要するところ(民法六六七条)、右四に認定の事実によれば、日綜、被告及び飛島建設が、昭和六二年一〇月二日、日綜が栃木県黒磯市木綿畑川原に建設する那須黒磯カントリークラブのコース並びにクラブハウスの建設工事に関して協定書を作成し、被告らが右工事に関して相互に協力する旨、日綜は右工事に関する許認可を取得する業務を行い、被告及び飛島建設は許認可に必要な技術的助言、協力をする旨が合意されたこと、日綜は、被告及び飛島建設に右工事を発注する旨が認められ、この事実によれば、被告らが、右ゴルフ場の建設計画に関して共同して業務を行うことを約したものというべきである。

しかしながら、①右協定がゴルフ場建設にかかる協定であって、本件リゾート開発事業にかかるものでないことは明らかであるのみならず、前記四に認定の事実によれば、②右協定書においても、日綜は解除までに被告及び飛島建設が要した費用について別途精算する旨の定めは存するものの、日綜、被告及び飛島建設の各出資の内容又は損益分配に関する取決めは規定されていないうえ、③右協定書が作成された当時、被告及び飛島建設は工事業者として右ゴルフ場の建設計画に参加するにすぎず、当該建設工事による損益も各別に帰属することを予定していたことも認められるほか、④右協定書には、右ゴルフ場建設工事にかかる開発許可の目処がつかなかったとき又は右工事の請負契約の条件に関して合意に達しなかったときは右協定は解除される旨が合意されていたところ、右ゴルフ場の建設計画は、昭和六三年一〇月ころ、栃木県が折からのゴルフ場総量規制等によりゴルフ場建設の開発許可凍結の方針を打ち出したため、被告らは、その建設計画の遂行を断念したこと、⑤その後、飛島建設は折からの社内事情により請負業者として参加することを断念したことも認められ、これらの事実に照らして考えると、前記認定の、被告らが共同して業務を行うことを約したという事実のみでは、被告らが昭和六二年一〇月二日に本件リゾート開発事業を営むことを目的とする組合契約を締結したという原告らの右主張を認めることはできず、他に原告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。

2  原告らは、被告及び日綜は平成元年四月四日に本件リゾート開発事業を営むことを目的とする組合契約を締結した旨を主張する。そこで検討するのに、前記四に認定の事実によれば、日綜は、右ゴルフ場の開発予定地の一部であった栃木県黒磯市百村字水尻所在の土地約一五万坪を対象として複合リゾートの開発建設を企画、立案し、平成元年四月四日、栃木県知事に対し、土地利用に関する事前協議書を提出し、右開発事業を推進しようとしたこと、被告は右建設工事の請負業者として日綜の右リゾート開発事業に協力していたことが認められ、右事実によれば、被告らが、右リゾート開発事業の開発建設計画に関して共同して業務を行っていたものというべきである。

しかしながら、①被告と日綜が、右リゾート開発事業の開発建設事業に関して合意したことを証する協定書、覚書その他の書面は存しないのみならず、②右リゾート開発事業が前記ゴルフ場の開発計画における協定書を受けて遂行されていたものとしても、右協定書において、日綜及び被告の各出資の内容又は損益分配に関する取決めは規定されていないこと、③被告が工事業者として右リゾート開発事業の建設計画に参加するにすぎず、当該建設工事による損益も各別に帰属することを予定していたことは前示のとおりである。この事実に照らして考えると、被告らが平成元年四月四日に本件リゾート開発事業を営むことを目的とする組合契約を締結したとの原告らの右主張は認められず、他に原告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。

3  この点に関し、原告らは、前記主張に沿う証拠として、甲1、5、7、8、9の2、乙1、2の1、4、20の1、22、23を指摘する。しかしながら、乙1は日綜と被告が共同して業務を行うものに関するものではあっても、本件リゾート開発計画に関するものではなく、乙2の1は県知事に対する土地利用に関する事前協議書であって、いずれも組合契約の締結を証明するものとはいえないというべきである。また、甲9の2、乙4、12、20の1、22はいずれもその成立時点が原告ら主張の組合成立後であることが窺われ、本件リゾート開発事業が数度の変遷を経ていることは前記四に認定のとおりであるから、結局、右各証拠が原告ら主張の昭和六二年一〇月及び平成元年時点における組合契約の締結を証明するものとは直ちにはいい難いものといわざるを得ない。更に、甲1、5、7、8は、被告らの社名が列記される等しているものであるものの、その成立時点が必ずしも明確ではないことは別として、右列記のみでは原告ら主張の組合契約の締結を認めることはできないものといわざるを得ない。

4  以上によれば、原告らの前記組合契約締結の主張は認められず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告らの、組合契約の締結を前提とする被告の責任に関する主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

六1 原告らは、被告が、平成二年三月当時、日綜に対し、本件リゾート開発計画についてのパンフレット、リーフレット及び現地立看板に、本件共同事業体の一員として、自己の商号を使用して本件リゾート開発計画の賛同会員の募集活動をすることを許諾した旨を主張する。そこで検討するのに、なるほど、甲1、5、7、8によれば、本件リゾート開発計画のパンフレット及びリーフレットに被告らの社名が併記され、現地立看板にも被告らの社名が列記されていること、「那須黒磯リゾート開発 工程表」と題する書面に被告らの社名が記載されていることが認められる。

しかしながら、①被告は平成二年九月までは工事の請負業者として日綜の本件リゾート開発事業に協力し、日綜は、そのころ、被告に対し、開発資金の援助を求めたこと、②被告が朝日住建とともに、事業主体として、リゾートマンション開発計画を推進することとしたこと、③飛鳥建設は、平成元年四月当時、日綜のリゾート開発事業に参画しないことを明らかにしていたこと、④被告は、平成二年三月当時、日綜と共同して業務を行うものの、建設業者として関係していたにすぎないことは前記四に認定のとおりであり、右事実に照らして考えると、右パンフレット等の各記載のみでは、平成二年三月当時、被告が日綜に対し自己の商号使用を許諾していたとの事実を推認するのに十分ということはできず、他に原告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告らの商号の使用許諾を前提とする商法二三条に基づく被告の責任に関する主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

2  原告らは、被告が、本件共同事業体の一員として、自己の商号を使用して本件リゾート開発計画の賛同会員の募集活動を行っている外観を作出し、あるいは、右外観が作出されていることを確知した後もこれをそのまま放置し、右商号使用の外観を容認していたから、原告らが右外観を信頼して本件預託金契約を締結したことについて商法二三条の類推適用による責任を負う旨を主張する。そこで検討するのに、先に認定した事実に加えて、証拠(甲1、甲2、3の各1、2、甲4の1〜5、甲5、甲6の1〜6、甲7、8、甲9の1〜3、甲11、12、19、乙21、24、原告宮川澄男)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告宮川澄男(以下「原告澄男」という。)は、平成元年一二月ころ、ゴルフ会員権の仲介業者から、被告と日綜が共同事業体で本件リゾート開発計画を進め、ホテル、ゴルフ場等を建設するので会員になってほしい旨勧誘され、その際、日綜の会社案内と本件リゾート開発計画のパンフレット(以下「本件パンフレット」という。)を見せられた。(特に、甲1、11、12、原告宮川澄男)

(二)  本件パンフレットには「建設プロジェクト 共同事業体 日綜開発株式会社 三菱建設株式会社 飛島建設株式会社」との記載、及びその下段に「日綜開発株式会社」と明示し、同社の本社、分室、現地事務所の所在地、電話番号の記載があり、会社案内には「当社は昭四五年設立以来、ゴルフ場の企画・立案・設計等ゴルフに関しての総合コンサルトとして、三菱商事株式会社をはじめ三菱グループの依頼と指導のもとに、三菱関連ゴルフ場の総合的な企画・立案・会員募集等の業務を地道に取り組み」との記載があった。(特に、甲1、11)

(三)  原告澄男は、そのころ、日綜に架電し、本件パンフレットの記載について確認したところ、日綜から、本件リゾート開発計画は被告らの共同事業で行われる旨、三菱グループとは特別の関係があって、今まで過去にもいろいろ行ってきた旨、今度は被告と共同事業体を作って行う仕事である旨の説明を受けた。

また、日綜は、平成二年二月二七日ころ、原告らに対し、本件リゾート開発に関し、申込金として一口五五〇万円を同年三月一〇日までに日綜名義の銀行口座に振り込む方法で支払うよう指示した。(特に、甲12、19、原告宮川澄男)

(四)  原告澄男は、現地調査もしなかったが、被告が本件リゾート開発計画に共同事業体の一員として参加しているものと思い、平成二年三月六日、日綜に対し、日綜の銀行口座に振り込む方法で、原告澄男及び原告宮川順の各名義で本件預託金を送金した。その後、日綜は、原告らに対し、日綜名義で右同日付けの領収書を送付した。(特に、甲2、3の各1、2、甲4の1、甲12、原告宮川澄男)

(五)  その後、本件リゾート開発計画の進捗状況がはかばかしくなかったこともあって、日綜は、平成二年七月から平成四年一〇月にかけて、原告らに対し、次のとおり、右開発計画の進捗状況を報告した。

(1) 平成二年七月一八日付け書面で、栃木県知事から同年六月一三日付けで事前協議についての回答書を得たので、同年秋からの着工に向けて邁進する旨(特に、甲4の2)

(2) 平成二年一二月二六日付け書面で、本件リゾート開発事業のリーフレットを送付する旨、右事業は、県の承認後、地主等の承諾書の取得もほぼ終了し、本申請の手続に入っている旨、共同事業体である飛島建設、被告及びインテリア部門を担当する高島屋等がよいものを作ろうと努力している旨(特に甲6の1、甲7)

(3) 平成三年三月二八日付け書面で、地主に用地代金を支払うとともに、行政との折衝中である旨、ホテル建設に関しては、日綜、飛島建設、被告及び高島屋とで被告会議室で週一回設計、設備、配置、昭明等を検討中である旨、具体的な報告はできないが、工事着工の一歩手前である旨(特に、甲4の3)

(4) 平成三年八月一五日付け書面で、県当局の立会のもとに温泉掘削予定地の確認測量が行われて承認を得た旨、その際の写真を送付する旨、開発も最終段階を迎えて足踏み状態が続いているが、日綜、飛島建設及び被告は責任を持って建設する旨(特に、甲6の2、甲10)

(5) 平成三年一〇月一六日付け書面で、本件リゾート開発計画が大幅に遅れている旨、現地においては日綜、飛島建設及び被告は連繋を密にして工程表に基づき本格的工事へと努力している旨、会員権の諸問題が発生しているが、計画を地道に進めているので、会員には満足できる施設を被告ら三社で責任を持って完成させることを約束する旨、黒磯市町も現地視察した旨、現地写真を送付する旨(特に、甲4の4、甲5、8、原告宮川澄男)

(6) 平成四年一〇月二八日付け書面で、共同体投資委員会の決定で売買契約への変更作業を行っていたが、残りが四名となった旨、事業体から催促されているが、作業が遅れている旨、一〇月末日ないし一一月初めには事業体と経過及び資金について打ち合わせがある旨(特に、甲6の3)

(六)  原告らは、本件リゾート開発計画が進捗しないことから、平成四年一二月ころ、日綜に対し、本件預託金の返還を求めた。日綜は、原告らに対し、同月二八日付け書面で、同月二五日に企業体の指示に基づく取り纏め作業が終了した旨、本プロジェクトは共同企業体の事業計画に盛込まれ推進している旨、返済依頼の件については資金調達ができず、逼迫した状態であるが、平成五年二月ないし三月ころまでには本件預託金を返還することが可能になるので返済を右時期まで猶予してもらいたい旨を回答した。

もっとも、日綜は、平成五年三月一九日付け及び同年四月一三日付けの各書面を原告らに送付し、その後も本件リゾート開発事業が徐々に進行している旨を報告していたが、平成六年一〇月一一日付け書面では、本件リゾート開発計画を進めていたが、経済情勢の悪化により、被告の提言により右計画を宅地開発に切り替る手続を進めてきた旨、会員への返金を早くするため、日綜が被告に権利を売却し、日綜が土地の取り纏めをすることを合意した旨を報告した。(特に、甲4の5、甲6の4、5、甲12)

(七)  前記(五)(2)のリーフレットには、「建設プロジェクト 共同事業体」として「共同事業体 日綜開発株式会社 三菱建設株式会社 飛島建設株式会社」との記載がある。(特に、甲7)

(八)  日綜が原告らに送付した前記(五)(5)の現地写真には、本件リゾート開発計画の現地に那須黒磯リゾート開発温泉鑿泉予定地との立看板が設置されていた様子が撮影されており、右立看板には、「日綜開発株式会社」「三菱建設株式会社」「飛島建設株式会社」が列記されていた。

もっとも、原告らは、現地で右立看板を確認したことはなく、平成三年一〇月ころ、右写真を見たのにすぎない。(特に、甲4の4、5、原告宮川澄男)

(九)  前記四10のとおり、被告は、日綜に対し、平成六年三月一五日、那須黒磯宅地造成に係る件と題する書面を送付したが、右書面には、本件リゾート開発計画の変遷の経緯のほか、右事業の最終取組方針は、日綜と被告との共同事業とするが、事業の推進については日綜と被告との役割分担を取り決め、日綜は長年にわたる地元又は行政とのパイプ等を生かして対象地全体の買収を前提とした土地の取り纏め又は開発許可取得までの開発行為の推進を負担し、被告は日綜の役割分担後の事業資金の提供及び施工を行うものとされた旨等が記載されている。(甲9の2)

(一〇)  他方、被告の従業員は、平成四年五月ころ、訴外十条開発株式会社を訪れた際、不動産部長の訴外柴田真人から、本件パンフレットの存在を知らされた。

また、前記四11のとおり、平成七年六月ころ、被告が本件リゾート開発計画から撤退するに際して、日綜は経費相当分を請求し、その裏付資料を提出した。被告が右資料を調査したところ、日綜が昭和六二年六月から一口四五〇万円のゴルフ会員を募集し、昭和六二年度は三五名、昭和六三年度は二四名に対し、会員権を販売していたことが判明したほか、平成元年一二月一二日から一口五五〇万円のリゾート会員を募集し、平成二年六月一一日までに一三名に対し会員権の販売を行っていたことが判明した。(特に、乙21、24、証人角田)

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  ところで、取引した第三者が営業主体を誤認することがやむを得ないような外観を作り出し、あるいは、そのような外観が存することを知りながらこれを放置して、容認していた者は、その商号使用を許諾したと同視できる程度に関与したものとして、この外観を信頼して取引した第三者に対し、商法二三条の類推適用により、名板貸人と同様の責任を負うべきである。

これを本件についてみるに、右2に認定の事実、ことに、①本件パンフレットの被告の商号の記載、②原告らに対するゴルフ場仲介業者の言動、③原告らの確認に対する日綜の回答等の事実に加えて、④本件パンフレットが相当数頒布されていることが窺われることを考慮したとしても、⑤本件パンフレットにおける被告の商号の記載は、「建設プロジェクト共同事業体」の一員として記載されているものであること(2(二))、⑥パンフレットには賛同金に関する記載が全くみられないこと、⑦本件預託金の振込先が日綜の銀行口座であり日綜名義の領収書が原告らに送付されていること(2(四))等からすると、平成二年三月ころ、被告が日綜、飛鳥建設とともに本件リゾート開発事業に関し、共同事業体を構成し、日綜が右共同事業体の業務として右事業の賛同会員を募集し、賛同金の預託を受けているという外観が存在し、原告らが右外観を信頼したことを推認するには、なお十分とはいえない。

これに加えて、右2に認定の事実によっても、被告が、平成二年三月ころ、本件パンフレットの作成に関与し、あるいは、その作成もしくは頒布を承諾していたとの事実は認めることはできず、また、当時、本件パンフレットの存在を認識していたとの事実も認めることはできないものといわざるを得ず、本件記録を精査しても、他に、被告が平成二年三月当時、右外観を作出し、又は被告が右外観を認識しながらこれを放置するなど、その商号使用を許諾したと同視できる程度に関与したことを認めるに足りる証拠はない。

右の点に関し、原告らは、本件預託金の預託に先立ち、原告らが、被告に対し、電話で確認したところ、被告は、本件リゾート開発計画が被告らの共同事業で行われる旨の説明を受けた旨を主張し、右主張に沿う甲12の記載部分、並びに、原告宮川澄男本人の、原告澄男が被告に架電して確認したところ、被告の従業員が、同原告に対し、日綜と被告が共同でミニゴルフ、レジャーランド、ホテル等を作る計画をしているとの回答をした旨、同原告は、被告が関与していることが確認できればよかったのでそれ以上に具体的な内容を確認していない旨の供述部分もある。原告らの右主張は、本件においては、その認識形成の上で重要な位置づけがされるものと解されるが、それにもかかわらず右主張は、平成一〇年一一月一一日の第六回弁論準備手続においてはじめてされているものである。弁論の全趣旨によれば、右の点から、主張それ自体の信頼性に疑義がもたれるところであるが、それだけでなく、原告澄男の供述によっても、同原告は日綜についてはどのような会社であるかもまったく知らず、その資力や企画力等について不安を抱いていたことが認められ、本件預託金が高額であることに加えて、同原告が会社の代表取締役として空調設備関係の工事を目的とする訴外昭和熱学工業株式会社を経営していること等をも併せて考慮すると、同原告が、被告に架電した際、賛同金の金額や返済方法、日綜及び被告の共同事業体における役割分担等の具体的な内容について確認したり、その説明を求めていないのはきわめて不自然であるというほかはなく、甲12の右記載部分及び同原告の右各供述部分はたやすく信用することができず、他に原告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。

次に、原告らは、日綜は、本件共同事業体の一員として被告の商号が記載されたリーフレット及び現地立看板を使用し、また被告は、平成四年五月ころには本件パンフレットの存在を確知したにもかかわらず、これに抗議したり、パンフレット等の訂正を求めた形跡はなく、その後も何らの措置も講ぜず、これを容認していた旨を主張する。しかしながら、前記2に認定の事実によれば、原告らが日綜から右リーフレットを送付されたのは平成二年一二月二六日以降であり、また、原告らが日綜から右立看板の撮影された写真を送付されたのは平成三年一〇月一六日以降であって、それ以前にこれらを確認したことはなく、いずれも本件預託金契約を締結した後であることが明らかであるから、右は原告らが本件預託金契約締結当時に信頼した外観を基礎づけるものではないといわなければならない。また、被告が平成四年五月以前に本件パンフレットの存在を認識していたことを認めるべき証拠もないから、平成二年三月当時本件パンフレット等を放置して右商号使用の外観を容認していたとの事実も認めることはできない。

更に、原告らは、日綜が、平成二年以降、原告らに対し、被告ら三社で責任を持って諸施設を完成する旨、あるいは、被告は、日綜及び飛島建設と、本件リゾート開発事業の打合せを被告の会議室で何回も行っている旨の書面を何回も送付している旨を主張する。しかしながら、右2(五)に認定の事実によれば、日綜が原告らに送付した右(五)記載の書面はいずれも平成二年三月以降に作成され、かつ日綜の作成によるものであって、被告が右書面の作成又は送付に関与したことを認めることはできない。

また、被告は、平成六年三月一五日付け書面(甲9の2)で、日綜に対し、日綜が開発事業の推進作業を行い、被告が日綜の役割分担終了後の事業資金の提供及び施工を行う共同事業であることを認めていた旨を主張するが、被告が、日綜に対し、右同日、「那須・黒磯宅地造成に係る件」と題する書面を送付し、右書面に、本件リゾート開発計画の変遷の経緯のほか、右事業の最終取組方針は日綜と被告との共同事業とする旨、及び日綜と被告との役割分担の取決め等が記載されていたことは前記四10のとおりであるところ、右書面は平成二年三月以降に作成されたものであるうえ、被告は平成二年三月当時、工事の請負業者として日綜の本件リゾート開発事業に協力していたのにすぎないことも前示のとおりであるから、右書面の送付をもって、被告が、平成二年三月ころ、本件リゾート開発事業に関し、右共同事業体の業務として日綜が賛同会員を募集し、賛同金の預託を受けているとの外観を作り出したことに関与したということはできない。

4  以上によれば、原告らの商法二三条の類推適用に基づく主張は、その要件を欠くことに帰着するから、理由がないというべきである。

七  以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官足立謙三 裁判官中野琢郎)

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